Ｒ－Ｍ　４をちょっと読んでみるっしょや。

『Ｒｅｎｋｏｎｔｏ－Ｍｏｎｄｏ　―Ｄｉｏ－ｌｉｂｅｒｉｇ＾ｉ―　ＫＶＡＲ～真実の世界～』

（〝４　人は神によって創られた試作品〟より）

「ここが僕たちの能力の起源の村か……」
　目の前の朱色の鳥居を見上げて言う。
「なんだか不気味ですね」
「そうだな……」
　改めて鳥居を見る。
　そして、その先の景色を見る。
「やっぱり不気味ですね」
「そうだな……」
　二人の視線の先には、薄暗い森の小径にそって数えきれない数の地蔵が立ち並んでいる。しかも、終わりが見えない。
「いったい、なんでしょうね、これ……」
「そうだな……」
　と、先程から上の空のように聞こえる返事が気になり史和を見ると、
「あーっ！」
「そうだな……」
　史和はスケッチブックを広げて、目の前の景色を描いている真っ最中だった。
「なにしてるんですか。まったく……いっつもこうなんですから」
　梨架は呆れた風に言うが、毎度の事なのでそれ以上はなにも言わない。言っても無駄だという事がここ五年ほどの付き合いで学習していた。
「まあ、その一途さが好きなのかな……？　でも、これって一途っていうのかな……？」
　少々疑問があるものの、そんなものは些細な事でしかなかった。
　四年前に結婚し、その年の暮れに長女を出産していた。だが、事情が事情だけに、二人はその子を梨架の実妹である雅恵に預けている。
「ホントに、子ども不幸な親よね、私たちって……」
　そんな事を考えながら、梨架はずっとスケッチブックに集中している史和を見ていた。
「まあ、この人の好きな事だし。見守ってあげたいし」
　小一時間が経った頃、史和はスケッチブックから顔を上げた。
「出来たの？」
　ワクワクした表情で訊く。
「ああ」
　そう言って、それを梨架に見せる。
「どれどれ……」
　梨架がそれを見るが、
「あれ？」
　首を傾げる。そこには、ロッキング・チェアに座った少女が描かれていた。
「ねえ、目の前の風景を描いていたんじゃないの？」
「ああ、もちろん描いたよ」
　そう言って別のページを見せる。そこには、スケッチながらもモノクロで撮られた写真のような絵があった。
「すっごーい」
　梨架は感嘆の声を上げる。
「毎回そんな反応をされると、本当にすごいのか自分じゃわからなくなるんだけどな」
「なに言ってるんですか。本当にすごいから毎回同じ反応するしかないんじゃないですか。本当にすごい……」
　そう言われて史和は照れる。
「でも、この絵はなんなの？」
　梨架はさっきの絵を見る。
「ああ、これか……。僕にもわからないんだ。ただ、ふと浮かんできたんだ。それで、描き留めたんだけどね」
　描いた本人も不思議そうにその絵を見る。
「そうなんですか……」
　梨架はもう一度じっくりと見るが、やはり見覚えはない。
「なんなんだろうな」
「なんでしょうね」
　二人はただただスケッチブックの絵を見ていた。
　小一時間ほど経った頃、
「まあ、そのうちなにかわかるだろうさ。とにかく、時間がないんだ。せっかくここに来れたんだし、自分たちの起源の村でも見ていこうよ」
「そうね」
　そして、再び朱色の鳥居を見る。
「やっぱり不気味ね」
「確かにね。でも、なにかありそうでワクワクしないかい？」
「そう……？」
「こう、男の子特有の冒険心ってヤツなのかな。なんだか、こう血が疼くっていうか……上手く説明できないんだけど」
　じれったそうに拳を握って振る。
「なんとなくわかるような気もするけど……やっぱりわからないかな」
「もう……もどかしいな……」
「なんでもいいですから、とにかく行きましょう」
「あ、ああ」
　史和はなにかもどかしさを感じたままだったが、梨架に急かされて渋々と云った表情でついていく。
（本当に子どもなんですから）
　梨架は表情には出さないが笑った。

　　　　　　＊

　鳥居をくぐると、そこには地蔵の列がある。相当に古いもののようで、苔生しているものもある。
　梨架は史和の手を握って寄り添う。史和はその手を優しく握り返した。
　両脇は薄暗い森が拡がっており、そこからなにが現れても不思議ではない。ここは能力者の村なのだから、秘密保持のためにどんな罠があるかも知れないのだ。
　そんな森の小径を二人はビクビクしながら歩いている。
「…………」
「…………」
　その間中、二人の間に会話はない。ずっと黙ったまま。
「…………」
「…………」
　それでも終わりはあるもので、地蔵の列もいつの間にやら終わっている。それでも、二人の間に会話はない。
「…………」
「…………」
　さらに行くと道の終わりがやってきた。
「……村だ」
「……村ね」
　二人は立ち止まった。
　そこには小さな集落があった。
　周囲を山に囲まれ、それぞれの四方には青、朱、白、黒の柱がそびえ立っている。
　史和は早速スケッチブックを取り出してその風景を描き始めた。
「またですか……」
　旅を初めて以来、珍しい場所や心に響く風景などがあると必ずこうしている。
　梨架は後ろからスケッチブックを覗き込む。普通なら気が散るなどと言われそうだが、集中していて周りが見えていないので、そういう事はない。そのスケッチブックには恐ろしい早さで絵が描かれている。躊躇う事なく鉛筆を動かし、目の前の風景を描いていく。それでいて、これだけでも完成かと思われるほど正確で緻密なのだ。
「時間がないのは誰のせいかしらね」
　まるで無邪気な子どもを見る母親のような目でそれを見る。
「さすが天才さんね」
　それからしばらくして、史和はスケッチを終えた。
「ごめん。いっつも……どうしても、つい……」
　梨架が自分を待っていた事に気付いて謝る。
「別にいいですよ。それに、こうして謝るのは何度目かしら？」
　梨架はクスクスと笑う。
「どのくらいかな？」
「数えきれないくらいよ。もう忘れちゃった」
　少しむくれてみせる。
「本当にごめん」
「さあ、行ってみましょう」
　梨架は話を切り上げ、村へと歩を進めた。
「あ、ああ」

　　　　　　＊

　村に入るが人の姿が見えない。そこで、とりあえず目に付く柱に向かう事にした。
「誰もいませんね」
「どこかに集まっているのだろうか」
　その史和の直感は正しかった。史和がスケッチブックに描いた少女がこの世に現れようとしていたのだ。そのため、村の主だった住人は神崎家に集まっていた。
　そんな話をしながら、二人は青い柱に向かう。
「それにしても、すごい柱だな……」
　柱に辿り着いた二人は柱に見とれる。
「本当に、すごい柱ですね……」
「ああ、なにか不思議な力のようなものを感じる。もっと、近付いてみよう」
　そう言うと柱に触れる。
「…………っ」
　史和が呻く。
「どうしたんですか？」
　梨架が慌てて史和を支える。
「…………ぁ」
　史和に触れた梨架も呻く。
（なんだ、この威圧感は……能力が逆流するみたいだ）
（なに、この締め付けるような力は……押さえつけられるような……）
　史和は柱から手を放す。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
　二人は荒い息をする。
　その時――

　――ヒュンッ！

　――パシッ！

　なにかが飛んで来て、なにかに当たる音がした。
　そして……、
「柱が……」
「光った……」
　青い柱が一瞬だけ光った。
　二人は茫然と柱を見ていた。そこに、一人の青年が歩み寄ってきた。
「あなたたちは、旅行の方ですか？」
　少し離れた所から茫然としたままの二人に話し掛ける。
「……え、ええ」
　なんとか梨架が答えるが、
「そうですか、ようこそ詩稀村へ。能力者のお二人さん」
「…………っ」
「…………っ」
　二人は絶句する。
　今まで自分たちが能力者だという事は秘密にしてきた。今までも様々な人たちに会ってきたが、誰にも話した事はなかった。ただの旅行者として旅をしていたのだ。それが、目の前の青年は自分たちを能力者とはっきりと言った。
「驚いているようですね」
「え、ええ。どうして僕たちが能力者だと？」
「ここは詩稀村。能力者の村ですから」
　その当たり前とも思える返事に言葉がない二人。しかし、
「……と言いたいところなんですが、そうでもないんですよね。詩稀村にも能力者でない人はいるんですよ。かくいうおれも能力者じゃないんでね」
「じゃあ、どうして……」
　梨架の質問に青年は自分の足元を指す。
「この先に入れるのは能力者のみだからさ」
　見ると、確かに青年は少し離れた場所にいる。
「柱に近づけるのは能力者のみ。悪意のない、ね。とにかく、あなたたちがどういう能力を持っているのかは知らないが、悪い人ではなさそうだ。おれは月ヶ瀬稔。初めまして」
　そう言って手を差し出そうとするが、
「おっと、この先には入れないんだった」
　そう言って慌てて手を引っ込める。
　二人は柱から離れて月ヶ瀬稔と名乗った青年に歩み寄る。
「初めまして、僕は富所史和。こっちは妻の……」
「梨架です。よろしくお願いします」
　そう言ってそれぞれ握手する。
「改めて、ようこそ詩稀村へ」

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